「貴族の館、血染めのディナー」−パリ2日目(後編)−
| うまいメシを食ってとても気分がいい。さあ、マレ地区のほうへ行ってみよう。ポンピドゥー・センターから東のエリアは、古い貴族の建物がそのまま残っている、マレ(Malais)と呼ばれる地域だ。マレの中心を通る、フラン・ブルジョワ通り(Rue
des Francs Bourgeois)を歩いた。 この通りに入って、すぐ左にあるのがスビズ館(Hotel de Soubise)。もともと貴族の館だったけど、今は歴史博物館になっている。門を入ると、きれいに刈り込まれた芝生の豪奢な前庭がまぶしい。建物も見事! 中に入ると、1階では、100年前の万国博覧会の様子を記録した写真や資料が展示されていた。瓦ぶきのアジアチックな木造建築と、西洋の石造りの建物が一緒になっている。万博が終わると取り壊されたから、今は見られない。大阪の太陽の塔みたいに、少しくらい残しておけばよかったのに。 1階の貴族の暮らした部屋を見て廻った。天井が豪華な装飾と文様で飾り立てられていて、息をのむ。相方は喜んでしまって、両手を広げて、「わーいわーい」といいながらクルクル廻る始末。それだけすごい部屋なのだ。 Natsuが買い物を早くしたいらしくて、不本意ながらスビズ館を出た。フラン・ブルジョワ通りは、雑貨屋がならぶショッピング街でもある。ぼくらはTINTINグッズの店にのぞいたりした。日本人の女の子二人組が、「無印良品」の大きな紙袋を提げて歩いている。この近くに店があるのだが、なぜわざわざ、パリで無印? 限定グッズが売ってるとか? それにしても、こういう感覚はよくわからない。 マレの界隈は古いアパルトマンが並ぶ街並が美しい。グレーとベージュの、油絵のような風景。ブラシストロークが見えてきそうだ。グルグル、グルグルとマレの路地を散策する。フラン・ブルジョワ通りの終端にあるのが、「パリで一番美しい」と言われている(らしい)、ヴォージュ広場(Place de Vosges)。 あいかわらず小綺麗な公園だ。パリの11月はもう冬の空気。だけど、芝生の緑がとてもまぶしい。広場の周りを、オレンジ色のレンガ造りの建物が取り囲んでいる。その昔、広場が見えるところに家をもつのが流行ったそうで、貴族たちが、こぞって館を建てた。おかげで今、緑とオレンジのコントラストがとても美しい公園になっている。若いお母さんと子供が散歩をしている。 公園の角のカフェに入ってちょっと休憩。タルトタタンを食べた。紅茶好きの相方は、ギャルソンに「ラプサン・スーチョン」を頼んだ。ギャルソンは、「ラプサン・スーション?」と言い直した。フランス語ではCHA、CHU、CHOを「シャ、シュ、ショ」と発音する。タルトタタンはかなり甘かった。 隣のPapeterie(文房具やさん)に入った。ちょっと高級そうな文房具ブティックといった感じ。皮で装丁された、手作りのメモ帳を買った。ここにも筆文字の絵ハガキがある。こちらのは書作品としてレベルの高いものだった。これを出している会社に連絡をとってみたくなり、一枚買っておいた。 ヴォージュ広場を南に出て、サン・ルイ島に向かおうとすると、河岸に黒くすすけた、古めかしい建物があった。排気ガスのせいかもしれないが、灰色の石の壁が本当に黒くなっている。きたない、というより、おどろおどろしい感じがする。グニャリとした曲線がグロテスクな、悪魔の館。実際、装飾などもかなり細かくて、古い教会かと思った。調べたらLYCEE(学校)だった。 サン・ルイ島は、観光スポットは特になく、女優やお金持ちが住む静かな高級住宅街である。中心を通るサン・ルイ・アン・リール通り(Rue St.-Louis en L'ile)を歩く。ここにはいい雰囲気のブティックが並ぶ。どこもちょっと高級そう。アクセサリー屋に入った。Natsuにネックレスを買ってあげた。実はこれは他の界隈のみやげ屋でよく見かけたもの。でもこの店のような、サン・ルイ島の上品なマダムが売っている店で買うと、ずいぶん高級なモノを買った気分になれる。 通りの途中にあるサン・ルイ・アン・リール教会(Eglise St.Louis en L'ile)に立ち寄ってみた。厳かな雰囲気の中に、金ピカ趣味が入ってる。ブルジョワのお金持ちご用達の教会だろうか。 サン・ルイ島から橋を渡ると、ノートルダムが見えた。すごい迫力だ。夕闇に沈む大聖堂は、何百年もここにいるという威厳と、重々しい貫禄がある。誰も太刀打ちできはしない。 ホテルで一休みしたあと、夕飯を食べにオデオン駅(ODEON)までゆっくりと歩いた。途中、ソルボンヌ大学を通りすぎた。街灯に照らされるアパルトマンが、映画のワンシーンのようなロマンティックな雰囲気を演出している。 パリ第6大学のそばにある、ポリドール(Polydor)という店は、前回の旅で訪れ、おばあちゃんのぶっきらぼうで暖かいもてなしが、とても気に入った店だった。 2人でフォルミュール(定食)を頼む。メインはブフ・ブルギニョン(牛肉赤ワイン煮)にした。アントレ(前菜)は、Natsuはほうれん草サラダ、ぼくはレンズ豆のスープ・フォワグラ入り。どれもパリのお袋の味。味は変わりなさそうだ。地元客ばかりというのも、昔と変わりない(隣のテーブルは大学の合コンらしい)。ちょっと安心した。 アントレのスープは本当に最高! 素朴な豆のスープにフォワグラがコクを加えている。ほうれん草サラダはドレッシングが酸っぱくて、口の中がきゅうっと絞られる感じがする。 メインが出てきた。牛肉の大きな塊がごろんごろんと皿にはいっている。どれもトロトロに煮込んである。赤ワイン煮込みだけど、色は茶色く濁っている。これがかえって手作りの風合いを出している。味も牛肉そのものの味がする。そもそも牛肉のワイルドな塊が、ぼくらを野獣にさせる。牛肉というより、「牛(うし)を食べてる!」という感じがする。牛に噛み付くライオンの気分である。 かくしてデザート。Natsuはカシスのバヴァロワ。真っ赤な血のようなバヴァロワ。赤ワイン、牛煮こみ、そしてこのバヴァロワと、まったく血に染められたディナーだ。ぼくは、かわいくアイスクリーム。今日は良い食事ができた。和やかに落ち着いて、ホテルへ帰った。 |
![]() スビズ館の一角
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フランスの味を堪能した二人は
翌日、モンマルトルへ向かった。寒い小雨の中を、新たな味覚の出会いが待っていた!

